動的因果モデリング (Dynamic Causal Modeling, DCM) は、汎用的に使える、神経回路におけるコネクティビティを仮説検証する分析手法です (Friston et al. (2003))。
注目する脳領域を決め、その神経活動の経時変化をモデル化します。このモデルをデータに適合させると、脳領域同士の向きのある接続性が得られます。
1. 線形動的モデル
状態空間モデルで、ブラックボックスの入力・出力をモデル化することを考えます。
入力 (input): u(t)
出力 (output): x(t)
入力係数 (input gain): c
自己フィードバック係数 (self-feedbuck gain): a
線形状態空間モデルでは、状態・観測モデルが線形に表現されます。
state equation: dtdx(t)=ax(t)+cu(t)
脳神経をモデル化する場合は、a<0 とします。(leakey integrator)
x(t)=eat+Klimt→∞x(t)=K=Base Line
動的モデルを理解するために重要なのが、固定点です。
u(t)=u で一定の場合、
x(t)=−acu
となり、入力が一定な間、出力は固定されます。
2. 双線形動的モデル
双線形システム:入力の係数が状態量の1次式になっている線形系
脳のシステムは、重ね合わせが成り立つような線形システムでないこともあります。DCMでは、双線形システムという比較的単純な非線形システムを用います。
ここで、脳領域1の入力を u1(t)、出力を x1(t) とし、脳領域1の入力を u1(t)、出力を x1(t) とするとき、以下の双線形動的モデルを考えます。
(x˙1(t)x˙2(t))∴ dtdX==(a11a21a12a22)(x1(t)x2(t))+u1(t)(b111b211b121b221)(x1(t)x2(t))+u2(t)(b112b212b122b222)(x1(t)x2(t))+(c11c21c12c22)(u1(t)u2(t))(A+UTB)X+CU
双線形システムは、fMRI実験における神経活性化を、以下の手順に沿って直感的にモデル化できます。
- 刺激によるボックスカーをモデル化して、システムへの入力 U とする。
- 各ブロックで違うモデルを仮定し、パラメーターを推定する。
ここで、A+UTB の部分が脳領域同士の結合性を表現できることになります。
3. 双線形モデルの一般化
入力に制約を加えるとモデルの非線形性が低下し、実際の神経ダイナミクスを近似しづらくなってしまいます。そこで、より汎用的なDCMモデルが提案されています。
A. Quadratic DCM
2次の非線形項を追加することで表現力を高めます。自由度が大幅に大きくなります。
dtdX=(A+UTB+XTD)X+CU
B. Two-State DCM
各領域に2つの状態(興奮性・抑制性)のニューロン集団を仮定します。入力は興奮性 E の出力のみとし、内的な働きは抑制性 I の出力のみとします。
dtdXJijEEX===JX+CUμijEEexp(AijEE+∑kukBijEE(k))[x1E,x1I, …, xNE,xNI]
C. Stochastic DCM
入力が定まらない安静時の接続性に使うことができます。誤差項を追加することで、領域間の時相関を考慮できます。
dtdX=(A+UTB)X+CU+E
4. Hemodynamic Model
XをBOLD応答へ変換するために、HRFのモデルが必要となります。
参照: fMRI解析の基礎 (1):BOLD反応
5. Parameter Estimation
一般的には、ベイズ推定を行います。以下のモデルを仮定します。
y(t)=g[x(t),θ]+ε(t)ε(t)∼N(0,σε2)
誤差の共分散構造は、相関を考慮するものと、独立と仮定するものがあります。独立と仮定した場合は、積の法則を用いることができます。
p[y(t1),y(t2),⋯,y(tNTR)∣θ]=i=1∏NTRp[y(ti)∣θ]
このとき、最尤推定やMAP推定が簡単に行えます。事前分布 p(θ) には、経験的な分布を用います。
θML=maxθ p(y1,y2,…,yN∣θ)θMAP=maxθ p(y1,y2,…,yN∣θ)p(θ)
6. Model Selection
DCMでは、いくつかのネットワーク構造を比較できます。「最適性」を定義するのは難しく、適合度とモデルの簡潔さとのトレードオフとなります。着目する領域は揃えたほうがよく、少数に絞って組み合わせ爆発しないようにします。
ベイズ推定では、モデルエビデンスを最大化してモデルを選択する方法があります。
p(Y∣Mi)=∫p(θ∣Mi)p(Y∣Mi,θ)dθ
モデルエビデンスの定量化には、ベイズ因子が利用できます。ただし、この計算は複雑で負荷が大きいです。
BFij=p(Y∣Mj)p(Y∣Mi)
BICの最小化
ベイズ情報量基準 (BIC) は、ラプラス近似(事後分布をガウス分布で近似)における自由エネルギーの、サンプルサイズが無限大の漸近挙動を単純化したものです。
BIC(Mi)=−2logp(Y∣Mi,θ^)+dlogn
ELBOの最大化
エビデンス下界 ELBO (Evidence Lower Bound) を最大化します。ここでは、KLダイバージェンスを用いてELBOを設計しています。
ELBO(Mi)=∫q(θ,Mi)logq(θ,Mi)p(Y,θ)
Reference
- Ashby, F. G. (2019). Statistical analysis of fMRI data. MIT press. url
- Friston, K. J., Harrison, L., & Penny, W. (2003). Dynamic causal modelling. Neuroimage, 19(4), 1273-1302. url