今回は『Mapping of the Language Network With Deep Learning』という論文の紹介をしたいと思います。
Abstract
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脳腫瘍の切除手術前には、Task fMRI (T-fMRI) による Eloquent Cortex の特定が行われます。
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Resting state fMRI (RS-fMRI) は、その代替方法として調査が進められています。
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従来の T-fMRI による方法と RS-fMRI に 3DCNN を用いた方法を比較し、どちらも言語処理の主要領域を特定することができました。
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3DCNN は少量の RS-fMRI データにも適用可能でした。
Introduction
脳腫瘍の治療おいて、脳神経外科医は「腫瘍切除の利益」と「機能障害のリスク」とのバランスをとらなければなりません。この2つの要因は、長期生存の要因とされているため、脳機能の領域特定が重要です。最も効果的な方法は手術中の刺激による特定ですが、補助的に手術を最適化するために fMRI が用いられています。
ここでは、2つの fMRI 取得法を取り上げます。
- Task fMRI (T-fMRI): 刺激を呈示したり、タスクを課したりする。
- Resting state fMRI (RS-fMRI):刺激やタスクを与えない。取得が簡単で、患者の協力を必要としない。
この研究では、3DCNN を RS-fMRI に用いた方法と、従来の T-fMRI を用いた方法で、言語システムの特定結果を比較しています。Neurosynth のメタ解析データを正解として、3DCNN & RS-fMRI の有効性と T-fMRI との比較を行います。
Materials and Methods
被験者
- WUSMの脳神経外科で収集されたデータ。
- 原発性脳腫瘍診断における術前MRIスキャンの必要性を目的として調査された。
- N = 35 人(23 - 71 歳)
MRI撮像条件
- T1w, T2w 構造画像, FLAIR, SWI
- Task fMRI
- EPI: 3 × 3 × 3 mm, TR = 2.2 s
- 言語タスク(最初に呈示された文字から単語を作るタスク)
- 5 task/rest blocks: 3 min 40 s
- Resting state fMRI
- EPI: 3 × 3 × 3 mm, TR = 2.2 s
- 11 min 44 s
前処理
4dfp を使用して、RS-fMRIとT-fMRIで同じ前処理を行いました。
- スライスタイミング補正、頭部動きの剛体補正、重ね合わせ
- 空間スムージング (6 mm FWHM)、線形トレンド除去、ローパスフィルター (< 0.1 Hz)
- 全脳・白質・脳脊髄液の信号と頭部動きパラメーターの回帰
- Censoring (0.5 % 変動)、正規化
T-fMRIは、GLMにかけて統計マップを計算し 10 mm ガウスフィルターをかけました。RS-fMRIは、T-fMRIに合わせて100フレームを選択しました。視覚化には Connectome Workbench を用いました。
畳み込みニューラルネットワーク
1. 学習
- 様々なデータセットから集めた RS-fMRI データ
- N = 2,795 人 → n = 268,000 samples
- Hacker et al. (2013) の 169 ROIs (11 Networks)
- 3D DenseNet(Matlabで実装)
- 各 ROI を 11 個のネットワークに分類した。
2. テスト
3DCNNの出力した言語ネットワークの確率マップをスムージングして、GLMの結果と比較しました。
言語処理のROI
Neurosynth で "language comprehension" と調べたメタ分析データを処理して、左半球に限定した言語処理の活性化マップを作成しました。ブローカ野とウェルニッケ野が中心的に活性化されています。
統計分析
それぞれの統計マップを正規化し、被験者間で平均を取って言語ネットワークを検出しました。更に、Bootstrap法を用いてROC曲線のAUCを比較しました。
Results
言語処理の平均マップ
図1は、集団レベルの言語ネットワークを示しています。T-fMRIとRS-fMRIはどちらもブローカ野とウェルニッケ野を明確に検出します。また、100フレームだけでもロバストな結果を示しています(図1B)。
図1 言語ネットワーク
(Luckett et al. (2020) より引用)
2つの方法の決定的な違いは、T-fMRIにおける言語処理タスクが、言語関連領域に加えて、言語に関連しない領域を活性化させることです。
図2 他のネットワーク
(Luckett et al. (2020) より引用)
Neurosynthとの比較
ブローカ野とウェルニッケ野のROC曲線は図3のようになりました。両方の領域で、3DCNN & RS-fMRI のAUCが高くなっています。
図3 ROC曲線(Luckett et al. (2020) より引用)
3DCNN & RS-fMRI の適用事例
事例1
左大脳基底核に腫瘍のある患者の例です。T-fMRI や 3DCNN & RS-fMRI で検出した言語領域(図4C,D)と腫瘍の場所が重なっていることがわかります。
図4 事例1(Luckett et al. (2020) より引用)
事例2
左前頭葉に腫瘍のある患者の例です。3DCNN & RS-fMRI で検出した言語領域(図5C)の方が腫瘍の場所が重なっていることがわかります。
図5 事例2(Luckett et al. (2020) より引用)
Discussion
RS-fMRI に 3DCNN を適用して言語処理領域を特定することができ、Neurosynthのメタ分析結果とも大きく一致していました。
T-fMRIに特有な活性化領域を考察します。これらは、タスクの性質によって活性化していると考えられます。
- dorsal anterior cingulate (dACC), right anterior insula
- salience network (SN) の一部
- 目標志向の行動に関与する
- left superior parietal lobule, left middle frontal gyrus
- dorsal attention network (DAN) や fronto-parietal control network (FPC) の一部
- 空間的注意や目標志向の分析に関与する
こういった区別は、言語処理とタスク処理の領域を区別することができ、術中の情報として利用する価値があります。
言語処理領域はトップダウンで決めていて、それがメタ分析結果と一致しているのなら、そのROIをそのまま使えば良いのではないか?
被験者ごとに違うなら、T-fMRIと一致していた方が良いのではないか?
と思ってしまいます…。
この研究の制限として次が挙げられています。
- どの方法が"個人"の言語処理領域を最も正確に同定するかは分からない。
- 腫瘍による歪みの影響は分からない。
- 明確な比較には経過観察が必要となる。
なぜ3DCNNを使っているのかは無いのですね><
Conclusion
- RS-fMRIデータの3DCNN分析によって、脳腫瘍患者の言語ネットワークを正確かつ具体的に特定できた。
- この方法は、限られた量のデータでロバストな結果となった。
- 将来的に、手術前の領域特定が改善されると予想している。
Reference
- Luckett, P., Lee, J. J., Park, K. Y., Dierker, D., Daniel, A. G., Seitzman, B. A., ... & Shimony, J. S. (2020). Mapping of the Language Network with Deep Learning. Frontiers in Neurology, 11, 819. url
- Dierker, D., Roland, J. L., Kamran, M., Rutlin, J., Hacker, C. D., Marcus, D. S., ... & Leuthardt, E. C. (2017). Resting-state functional magnetic resonance imaging in presurgical functional mapping: sensorimotor localization. Neuroimaging Clinics, 27(4), 621-633. url
- Hacker, C. D., Laumann, T. O., Szrama, N. P., Baldassarre, A., Snyder, A. Z., Leuthardt, E. C., & Corbetta, M. (2013). Resting state network estimation in individual subjects. Neuroimage, 82, 616-633. url