[論文紹介] 3DCNNによる言語処理領域の手術前特定

最終更新日: 2020年8月12日

今回は『Mapping of the Language Network With Deep Learning』という論文の紹介をしたいと思います。

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Abstract

  • 脳腫瘍の切除手術前には、Task fMRI (T-fMRI) による Eloquent Cortex の特定が行われます。

  • Resting state fMRI (RS-fMRI) は、その代替方法として調査が進められています。

  • 従来の T-fMRI による方法と RS-fMRI に 3DCNN1 を用いた方法を比較し、どちらも言語処理の主要領域を特定することができました。

  • 3DCNN は少量の RS-fMRI データにも適用可能でした。

Introduction

脳腫瘍の治療おいて、脳神経外科医は「腫瘍切除の利益」と「機能障害のリスク」とのバランスをとらなければなりません。この2つの要因は、長期生存の要因とされているため、脳機能の領域特定が重要です。最も効果的な方法は手術中の刺激による特定ですが、補助的に手術を最適化するために fMRI が用いられています。

ここでは、2つの fMRI 取得法を取り上げます。

  • Task fMRI (T-fMRI): 刺激を呈示したり、タスクを課したりする。
  • Resting state fMRI (RS-fMRI):刺激やタスクを与えない。取得が簡単で、患者の協力を必要としない2

この研究では、3DCNN を RS-fMRI に用いた方法と、従来の T-fMRI を用いた方法で、言語システムの特定結果を比較していますNeurosynth のメタ解析データを正解として、3DCNN & RS-fMRI の有効性と T-fMRI との比較を行います。

Materials and Methods

被験者

  • WUSMの脳神経外科で収集されたデータ3
  • 原発性脳腫瘍診断における術前MRIスキャンの必要性を目的として調査された。
  • N = 35 人(23 - 71 歳)4

MRI撮像条件

  • T1w, T2w 構造画像, FLAIR, SWI
  • Task fMRI
    • EPI: 3 ×\times 3 ×\times 3 mm, TR = 2.2 s
    • 言語タスク(最初に呈示された文字から単語を作るタスク)
    • 5 task/rest blocks: 3 min 40 s
  • Resting state fMRI
    • EPI: 3 ×\times 3 ×\times 3 mm, TR = 2.2 s
    • 11 min 44 s

前処理

4dfp を使用して、RS-fMRIとT-fMRIで同じ前処理を行いました。

  • スライスタイミング補正、頭部動きの剛体補正、重ね合わせ
  • 空間スムージング (6 mm FWHM)、線形トレンド除去、ローパスフィルター (<\lt 0.1 Hz)
  • 全脳・白質・脳脊髄液の信号と頭部動きパラメーターの回帰
  • Censoring (0.5 % 変動)、正規化

T-fMRIは、GLMにかけて統計マップを計算し 10 mm ガウスフィルターをかけました。RS-fMRIは、T-fMRIに合わせて100フレームを選択しました。視覚化には Connectome Workbench を用いました。


畳み込みニューラルネットワーク

1. 学習
  • 様々なデータセットから集めた RS-fMRI データ
  • N = 2,795 人 \to n = 268,000 samples
  • Hacker et al. (2013) の 169 ROIs (11 Networks)
  • 3D DenseNet(Matlabで実装)
  • 各 ROI を 11 個のネットワークに分類した。
2. テスト

3DCNNの出力した言語ネットワーク5の確率マップをスムージングして、GLMの結果と比較しました。


言語処理のROI

Neurosynth で "language comprehension" と調べたメタ分析データを処理して、左半球に限定した言語処理の活性化マップを作成しました。ブローカ野とウェルニッケ野が中心的に活性化されています。


統計分析

それぞれの統計マップを正規化し、被験者間で平均を取って言語ネットワークを検出しました。更に、Bootstrap法を用いてROC曲線のAUCを比較しました6

Results

言語処理の平均マップ

図1は、集団レベルの言語ネットワークを示しています。T-fMRIとRS-fMRIはどちらもブローカ野とウェルニッケ野を明確に検出します。また、100フレームだけでもロバストな結果を示しています(図1B)。

figure1.jpg

図1 言語ネットワーク
(Luckett et al. (2020) より引用)

2つの方法の決定的な違いは、T-fMRIにおける言語処理タスクが、言語関連領域に加えて、言語に関連しない領域を活性化させることです

figure2.jpg

図2 他のネットワーク
(Luckett et al. (2020) より引用)


Neurosynthとの比較

ブローカ野とウェルニッケ野のROC曲線は図3のようになりました。両方の領域で、3DCNN & RS-fMRI のAUCが高くなっています

figure3.jpg

図3 ROC曲線(Luckett et al. (2020) より引用)


3DCNN & RS-fMRI の適用事例

事例1

左大脳基底核に腫瘍のある患者の例です。T-fMRI や 3DCNN & RS-fMRI で検出した言語領域(図4C,D)と腫瘍の場所が重なっていることがわかります。

figure4.jpg

図4 事例1(Luckett et al. (2020) より引用)

事例2

左前頭葉に腫瘍のある患者の例です。3DCNN & RS-fMRI で検出した言語領域(図5C)の方が腫瘍の場所が重なっていることがわかります。

figure5.jpg

図5 事例2(Luckett et al. (2020) より引用)

Discussion

RS-fMRI に 3DCNN を適用して言語処理領域を特定することができ、Neurosynthのメタ分析結果とも大きく一致していました

T-fMRIに特有な活性化領域を考察します。これらは、タスクの性質によって活性化していると考えられます

  • dorsal anterior cingulate (dACC), right anterior insula
    • salience network (SN) の一部
    • 目標志向の行動に関与する
  • left superior parietal lobule, left middle frontal gyrus
    • dorsal attention network (DAN) や fronto-parietal control network (FPC) の一部
    • 空間的注意や目標志向の分析に関与する

こういった区別は、言語処理とタスク処理の領域を区別することができ、術中の情報として利用する価値があります。

言語処理領域はトップダウンで決めていて、それがメタ分析結果と一致しているのなら、そのROIをそのまま使えば良いのではないか?
被験者ごとに違うなら、T-fMRIと一致していた方が良いのではないか?
と思ってしまいます…。

この研究の制限として次が挙げられています。

  • どの方法が"個人"の言語処理領域を最も正確に同定するかは分からない。
  • 腫瘍による歪みの影響は分からない。
  • 明確な比較には経過観察が必要となる。
なぜ3DCNNを使っているのかは無いのですね><

Conclusion

  • RS-fMRIデータの3DCNN分析によって、脳腫瘍患者の言語ネットワークを正確かつ具体的に特定できた
  • この方法は、限られた量のデータでロバストな結果となった
  • 将来的に、手術前の領域特定が改善されると予想している。

Reference
  • Luckett, P., Lee, J. J., Park, K. Y., Dierker, D., Daniel, A. G., Seitzman, B. A., ... & Shimony, J. S. (2020). Mapping of the Language Network with Deep Learning. Frontiers in Neurology, 11, 819. url
  • Dierker, D., Roland, J. L., Kamran, M., Rutlin, J., Hacker, C. D., Marcus, D. S., ... & Leuthardt, E. C. (2017). Resting-state functional magnetic resonance imaging in presurgical functional mapping: sensorimotor localization. Neuroimaging Clinics, 27(4), 621-633. url
  • Hacker, C. D., Laumann, T. O., Szrama, N. P., Baldassarre, A., Snyder, A. Z., Leuthardt, E. C., & Corbetta, M. (2013). Resting state network estimation in individual subjects. Neuroimage, 82, 616-633. url


  1. 3D deep Convolutional Neural Networks
  2. 子供や患者など、集中して対応できない状況では重要となります。
  3. WUSM は Washington University School of Medicine in Saint Louis の略。Dierker et al. (2017) でも利用されています。
  4. 側方性指数 (Laterality Index; LI) について左利きと右利きの被験者で差がなかったため、同一集団としています。
  5. Hacker et al. (2013) に "Language network" (13 ROIs) があります。これは、Task-fMRIで決めた領域のようです。
  6. Matlabのperfcurveを利用しています。